
平井正也 作
魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。
第11話「Dr.ハポンの南の島行き 後編」
Dr.ハポンとネオンが村を出発する前に、村の景色をたくさん描いていたのを覚えていますか?
島についてからもふたりは絵を描きつづけ、いまやルリコの小さな家は絵でいっぱい。
まるで美術館のようです。
島ではじめての美術館ですから、いつも誰かが遊びに来ました。入場料はただ。
だけどみんな、かわりになにか食べ物を持ってきてくれるのです。

これはネオン作、「島の鳥」という絵です。
ふたりが島で食べるものは、どれもはじめて口にするものばかりでした。
けれどもうれしかったのは、そのめずらしさではなくて、島の人たちのやさしさです。
たとえば、ある釣り人はこんなふうに魚をくれました。
「一匹しか釣れなかったけど、ぼくたちはいつでも食べられるからね。」
何日かするうちに、Dr.ハポンとネオンは気がついたのです。
つまりこの小さな島には、ここの人たちがやっと暮らせるだけしか、食べものがないんだってことを。
それからは食べるものだけでなくて、島にあるものすべてをとてもありがたいと思いました。
「ごちそうさま」といったあと、ふたりはいつも不思議な気持ちになります。
それは、島に生かされているんだという気持ちでした。
Dr.ハポンが病気をよくしてくれるといううわさは、すぐに島中にひろまりましたが、患者さんがあふれるということはありませんでした。
というのも、この島にはそもそもあまり病人がいなかったのです。
それは島の時間の流れ方に秘密があるかもしれないと、Dr.ハポンは考えました。
この島には季節というものがありません。毎日あたたかいので、島に来てからどのくらいの時間がたったのかわからなくなるほどでした。
島のお年寄りに何歳かたずねると、たいていこう答えます。
「そんなのとっくに忘れちまったよ。毎日楽しけりゃ、それでいいじゃないの。」
それはとてもゆっくりなような、とてもはやいような、不思議な時間の流れ方でした。
そんな日々が過ぎると、なんだかふたりは冷たい北風や、雪解けの春がとっても恋しく思えてしかたなくなりました。そしてついに島を出る決心をしたのです。
そして出発の朝、ふたりはポケットに手紙が入っていることに気づきました。
「こんな何もないところにいままでいてくれて、ありがとう。
たぶんふたりがいなくなると、ふたりそっくりの形の穴が、
こころにぽっかりあいてしまうでしょう。
だけどその穴をふたりだと思って、また会えるときまで大事にとっておきます。
今度はわたしが遊びに行くから、きっと絵の場所へ連れて行ってね。
ありがとう。 ルリコ」
帰りのいかだはとてもさみしかったけど、ルリコが来たときにどこへ連れて行こうかと、もう相談をはじめているふたりでした。

みなさんは、どこか遠くに友達がいますか?もしかしたら月にいちばん近い山のいたきや、宇宙の反対側の小さな星にも、未来の友達がいるかもしれないと想像してみてください。そのとたん、この世界はとても素晴らしいところになると思いませんか?
(「健康保険」2006年2月号 掲載)
作品紹介 TOP|HOME
|