平井正也 作

 魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。

第10話「Dr.ハポンの南の島行き 中編」

 ネオンとDr.ハポンが波に揺られているあいだ、南の島ではルリコもおおいそがしでした。
まずルリコは手紙を拾った浜辺にあたらしい家をたてました。
いつ海の向こうから友達がやってきてもすぐにわかるようにです。
そして毎日ごちそうを用意しました。友達がおなかをすかせていてもすぐにおもてなしできるようにです。
 どうしてルリコはまだ会ったことのない友達のために、こんなにがんばったのでしょうか?
それはきっとルリコがこの島を大好きだったからだと思います。
だれでも自分の好きなものを誰かに話すときには一生懸命になるものでしょう?
 いかだが浜辺に着いたとき、ネオンとDr.ハポンがおおよろこびしたのはいうまでもありません。
なにしろ屋根に大きく
「おいしいごはんできています ルリコ」
と書かれた家と、手をふって待っているルリコを発見したのですから!

ふたりとルリコはすぐになかよしになりました。
ルリコの料理の腕はすばらしかったし、ふたりのおみやげの絵は、島を出たことがないルリコの宝物になりました。
こうして未来の友達はほんとうの友達になったわけです。
 Dr.ハポンはすこし話すうちに、すぐにルリコの話し方の特長に気がつきました。
たとえばルリコはこんなふうに話します。
 「ようこそいらっしゃい!ありがとう。」
 「狭いところだけどあがってください!ありがとう。」
 「冷めないうちにどうぞ召し上がれ!ありがとう。」
 ルリコはたいてい言葉の最後にありがとうをつけていました。
こちらが感謝したい時にいつも先に言われてしまうので、すこし決まりがわるい気がしました。
だけどそれは口ぐせというわけではありませんでした。
 「みんなこころに目に見えない袋をもっていると思うんです。
 そしてうれしいな、とかしあわせだなという気持ちをその袋に入れるんです。
 その袋がいっぱいになって入りきらなくなった時に、
 ありがとうっていう言葉になってまた袋が空になるんです。
 わたしの場合、その袋が人よりとても小さいんじゃないかと思うんです。
 ありがとう。」
 Dr.ハポンもネオンもその話を聞いてとても感動しました。
そして自分のこころの袋も、もっと小さくしたいなと思いました。
しあわせに生きるって、どれだけこころからありがとうって言えるかなんじゃないかなと、ぼんやり考えながら、島の美しい日の入りを眺めていました。

 ねえ、みなさんのこころの袋はどのくらいの大きさですか?うれしいことがあっても黙って袋に隠してしまうことはありませんか?ありがとうの気持ちをためこんでしまうのもからだによくないのかもしれませんね。

(「健康保険」2006年1月号 掲載)

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