平井正也 作

 魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。

第9話「Dr.ハポンの南の島行き 前編」

 毎年冬はやって来るのに、来るたびにこんなに寒かっただろうかと感じるものです。
寒いのが苦手なネオンは、しばらくどこか暖かいところへ行きたいと考えていました。
そこで、どこにいるかもわからない、まだ会ったこともない誰かに宛ててこんな手紙を書いたのです。

 「はじめましてこんにちは。
 この手紙を読んでいるあなたの住んでいるところが、
 もしも冬でもあたたかいとしたら、ぼくはぜひともあそびに行きたいです。
 おみやげはたくさんもっていきます。お手伝いもします。
 未来のあなたの友達 ネオンより」

 ネオンはこの手紙を封筒ではなく瓶につめて、川に流しました。
それからだいぶたってもうわすれかけた頃、ネオンのポストに手紙が届きました。

 「浜であなたの瓶を拾いました。お手紙ありがとう。
 この島は一年中花が咲いています。なにもないけど、冬でもあたたかいです。
 どうぞあそびにいらっしゃい。ありがとう。
 未来のあなたの友達 ルリコより」

 ネオンは手紙を読んでおおよろこびしました。
Dr.ハポンに話して、ふたりでいかだに乗って川を下る計画をたてました。
海に出てうまく海流にのれば一週間ほどで島につく計算です。
無事につくように、いかだは瓶のかたちにこしらえました。
おみやげはふたりの大好きな村のながめをたくさん絵に描いてあげることにしました。
 そしてついに出発の朝、ネオンはまるで夏のようなかっこうをしてきました。
 「きみはずいぶん薄着のようだけど、寒くないのかい?」
 Dr.ハポンがたずねるとネオンは、
 「なにしろ南の島に行くのだからね。厚着をしたってあとで荷物がふえるだけさ。」
 と平気な顔で答えるのでした。
実は夢中になって旅のしたくをしているあいだ、ネオンは寒さのことなんかすっかりわすれていたのです。
 Dr.ハポンは、あれ?と思いました。だけどだまってうれしそうなネオンを見ていました。
 「ねえハポン、南の島についたら今度は島の景色をたくさん描こうね。
 そして帰ったら部屋に飾るんだ。
 そうすれば、いつでもまたあたたかい気持ちになれるからね。」
 瓶のかたちのいかだはなかなかの乗り心地です。
やさしく揺れながら流れに乗ってゆっくりと進みだしました。

 ねえみなさんは寒い冬をどうすごしていますか?どうしてもたくさん着込んだり、部屋をあたたかくしてこもったりしてしまいますよね。だけどほんとうにあたたかいのは厚手のセーターでもストーブでもなくて、わたしたちのからだなのかもしれないと思います。からだの中からぽっぽとしてくるようなものを見つけてあたたまるというのはいかがでしょうか?

(「健康保険」2005年12月号 掲載)

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