平井正也 作

 魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。

第8話「プンプンとカンカン」

 ピューっと北風が吹いて、村に冬の足音が近づいてきました。Dr.ハポンはこんな季節が大好きでした。あったかい紅茶を飲んだり、ずっと前に友達からもらった手紙を読み返したり、なによりおしゃれをして散歩するのが楽しみでした。
 丁寧にたたんでしまっておいたお気に入りのコートとマフラーを引っぱり出して、今日も散歩に出かけると、むこうから奇妙なふたり組みがやって来ました。
やたらめったら文句をいいながらどしどし歩いて来るのです。

 「夏がどこかへ行ってしまったせいでまた冬がやって来るぞ、プンプン!」
 「冬なんかちっともいいところがないぞ、カンカン!」
Dr.ハポンはおそるおそるあいさつをしてみました。
 「こんにちは。ぼくはハポン。きみたちそっくりだけど双子なの?」
 「そうさ、おれプンプン!」
 「そうさ、おれカンカン!」
 名前を聞いただけで怒られているような気持ちになるので、ぴっくりしてしまいました。
とにかく機嫌をなおしてもらおうと、好きな季節をたずねてみました。
 「春だって夏だって秋だって嫌いさ、プンプン!」
 「そうさ、あったかいのも暑いのも涼しいのも嫌いさ、カンカン!」
 何をきいても嫌いだというので、今度はこんなふうに質問してみました。
 「それじゃあなんでもかんでも嫌いだっていうことが、好きなんだね?」
 ふたりはしばらく考えこみました。
 「嫌いだっていうことも嫌いさ、プンプン!」
 「そうさ、好きなものなんてないさ、カンカン!」
 Dr.ハポンは、おかしくて吹き出しそうなのをこらえこらえ、今度はこんなふうにきいてみました。
 「プンプンはカンカンのこと、嫌いかい?」
 プンプンは黙ってしまいました。
 「カンカンはプンプンのこと、嫌いかい?」
 カンカンも黙ってしまいました。

 しばらくやさしく時間がながれた後、Dr.ハポンはいいました。
 「嫌いっていうほうが、好きっていうよりも簡単だよ。だけど、好きなことを話したほうが楽しいんだよ。」
 プンプンとカンカンは黙ったまま帰っていきました。
だけど、落ち葉を踏みながら歩いていく様子は、まるで踊っているみたいに見えました。

 みなさんの周りには、楽しそうに文句ばかりいっている人はいませんか?そんな人はプンプンカンカン病かもしれません。毎日がしあわせだなぁと思っている人は決してかからない病気ですから、これからの季節、うつらないようにみなさんも気をつけてくださいね。

(「健康保険」2005年11月号 掲載)

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