平井正也 作

 魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。

第7話「ノンノンときのこ狩り」

 かわり者の多いDr.ハポンの友達のなかでも、特にふうがわりな人がいました。みんなからはノンノンと呼ばれて、たいそう人気者でした。
 みんなが道ばたで小さな花を見つけて「かわいいなぁ」というとき、ノンノンは「うまそうだなぁ〜」といいます。みんなが大きく実った木の実を見つけて「おいしそうだなぁ」という頃には、ノンノンはもうたべはじめています。つまりノンノンはすごいくいしん坊だったのです。
 ある日の朝、Dr.ハポンが散歩していると、大きな口をぽかーんとあけたまま、じっとしているノンノンに会いました。

 「やあ、ノンノン。そんなに一生けんめい口をあけて何をたべようとしているの?」
 「やあ〜ハポン〜。おいら、お日様をたべているんだぁ〜。今日の朝焼け、ちょっとすっぱくて、ぽかぽかして、おいしいよぉ〜。ハポンも一緒に食べるかぁ〜い?」
 「それじゃあぼくもいただきます。そういえば、このまえ降った雨で、そろそろ山のきのこが大きくなっている頃じゃないかな?」
 「あぁ〜、おいらも、今日がいいと思っていたんだぁ〜。」
 こうしてその日はみんなできのこ狩りということになりました。きのこ狩りといえば、ノンノンはなくてはならない人です。
 思ったとおり、山にはたくさんのきのこが生えていました。みんなきのこを見つけるとまずはノンノンのところへ持っていきます。ノンノンが「うまそぉ〜」といえば大丈夫、「まずそぉ〜」といえば毒きのこ、という具合に見分けることができるのです。どんなにおいしそうに見えてもノンノンの目をごまかすことはできません。どんなにきのこの勉強をしても、誰もノンノンにはかないませんでした。

 「どうしてノンノンには、たべられるきのこがわかるの?」
 みんな不思議がってたずねました。
 「う〜ん・・・。おいら、わからなぁ〜い。」
 ノンノンにも説明できないので、Dr.ハポンはこんな風に考えてみました。
 「みんな誰かに教えられなくても眠くなったら眠って、お腹がすいたらたべる。ノンノンは何も知らなくても、からだがたべたがっている声が聴こえるのかもしれないね。ほんとうはみんなのからだも声を出しているのかもしれないよ。」

 ねえ、みなさんは何を食べるべきかを本やテレビに教えられていませんか?たまには何を食べたがっているのか、からだに聴いてみるのもいいのかもしれませんね。
 ところで、うわさによるとノンノンは、ほんとうにおいしいきのこはみんなに教えてくれないそうです。きのこ狩りの後、そーっと山へ入ってみたら、ひとりでむしゃむしゃきのこを食べているノンノンに会えるかもしれません。

(「健康保険」2005年10月号 掲載)

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