
平井正也 作
魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。
第2話「Dr.ハポンの音楽会」
その村に春が訪れる頃、毎年はやる風邪がありました。くしゃみを連発したり、鼻が詰まったかと思うとつるつる出てきたりするのです。これはいわゆる「花粉症」というやつかも知れませんでしたが、誰もそんな名前は知らなかったのです。一度かかると毎年悩まされるこの風邪にみんなうんざりしていました。
Dr.ハポンはといえばまったく平気でしたが、とにかくこの時期は大いそがしです。友達のネオンがくしゃみをしながらやって来ました。
「ハポン、こんにちは、は、はっくしょんっ!今年もとうとうこの季節がやって来たよ。このくしゃみどうにかして・・・っくしょんっ!」
「それじゃあぼくが太鼓を打つからね、きみはいいところでくしゅんとやってごらん。」
Dr.ハポンはくしゃみを止めるのではなくて、楽しくくしゃみができるようにしようと考えました。はじめはゆっくり、そしてだんだん速く太鼓を打ち鳴らしました。
ネオンがくしゃみをひとつやると、ハポンはシンバルをジャーン!
ネオンがくしゃみをふたつやると、ハポンはシンバルをジャーンジャーン!!
ふたりはだんだん楽しくなって大きいのや小さいのを調子をつけて連発しました。

たん たたたん たん! くしゅん うん うん んくしゅん!
ずどどどどん!! ずっ ずっ はっくしょん!!
くしゅっ くしゅっくしゅっ! しゃん しゃんしゃーん!
「これはまるでジャズのようだね。」
ネオンは白熱して耳の奥をじーんとさせながら言いました。
すると、裏に住んでいるポレポレじいさんが怒鳴り込んできました。
「こらおまえたち。あんまりさわがしくてなにも手につかんわい。いいがげんに・・・ふぁ・ふぁ・ふぁっくしょん!」
Dr.ハポンはポレポレじいさんのくしゃみを聞いて、トランペットをさし出しました。じいさんのくしゃみはちょうどいい具合にトランペットを響かせました。

プァン プァン プァーーーン!パッパパパーーン!
だだだんだん ジャーン! すたん たん たん ジャーン!
いーっくしっくしょん しょん! しょん!
「こりゃあいいぞ、なんだか鼻もとおってきたわい。」
「おじいさん、その調子。なかなかの腕前ですよ。」
Dr.ハポンは、くしゃみがいけないのではなくて、それでいらいらしてしまうのがいけないことをよく知っていました。三人とも、汗かきながら一心に演奏しつづけました。ネオンもポレポレじいさんもくしゃみが止まらないのはさっきまでとおなじでしたが、帰るときには鼻歌まじりに小気味よくくしゃみして行ったのです。
こんなふうに春には、村のあちこちでDr.ハポンの音楽会が催されるのです。
ねえみなさん、Dr.ハポンはたいした音楽家だと思いませんか?その村がどこにあるのか、それは月にいちばん近い山のいただきかもしれませんし、宇宙の反対側の小さな星かもしれません。
(「健康保険」2005年5月号 掲載)
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