平井正也 作

 魚の世界には医者はいません。鳥の世界にも医者はいません。その村にもやっぱり医者はいませんでした。けれどもわたしは、わたしたちのことばでは医者と呼ぶのがほんとうのような人を知っています。ですからわたしたちは彼のことをDr.ハポンと呼ぶことにしましょう。

第1話「Dr.ハポンはのんきなお医者」

 Dr.ハポンが医者でなくてなんなのか?ある人はへんてこな画家だといい、またある人は気まぐれな音楽家だといいます。けれども彼のすることはいつも人の病気やけがをよくしてしまうのでした。
 たとえばこんなことがありました。ある日Dr.ハポンが朝の散歩をしていると友達のネオンに会いました。
 「おはよう、ネオン。すっかりあたたかくなったね。ごきげんいかが?」
 「おはよう、ハポン!いまちょうどきみのところへ行こうとしていたんだ。ぼく近ごろなぜだか首がいたくって。うちでおいしいキャベツをごちそうするから、ちょっと診てくれない?」
 Dr.ハポンはネオンの家に着くと、ネオンの首ではなく部屋をすみずみまで観察しはじめました。台所ではネオンがキャベツのスープと、ロールキャベツと、キャベツのサンドイッチを盛りつけていました。しばらくして、Dr.ハポンは納得がいったようにこういいました。

 「ねえネオン。きみが大好きなキャベツの絵、すこし額がまがっているようだよ。きみずっと首をかしげてながめていたのじゃないかい?」
 「ほんとうだ。ぼく、きのうもおとといもキャベツの絵ばかりながめていたんだ。はやく畑のキャベツが食べたかったから。」
 ふたりは額をまっすぐになおして、それから今朝とれたばかりのキャベツのフルコースをなかよく半分ずつにして食べました。それですっかりネオンの首はよくなってしまいました。

 Dr.ハポンはいつだってそうしてその人の住んでいるところに行って、その人の好きな本や、食べ物や、音楽などを一緒に読んだり、食べたり、うたったりしながら知らないうちによくしているのです。Dr.ハポンの家にはこんな看板が立っています。
 「ぼくは知らない人の具合をよくしてあげることはできません。どこか調子がわるい人は、まずぼくと友達になってください。」

 ねえみなさん、これでDr.ハポンがずいぶんのんきなお医者であることがわかったでしょう。Dr.ハポンのいる村がどこにあるのかって?それは月にいちばん近い山のいただきかもしれませんし、宇宙の反対側の小さな星かもしれません。

(「健康保険」2005年4月号 掲載)

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